23-06① "Job and Hobby"

目次

1. 経緯
2. 仕事と趣味
3. 仕事に対する姿勢
4. まとめ


1.経緯

近頃、仕事について深く考えるようになった。

建築家の本を読んでいるときに度々目にした"建築は仕事であり趣味である"といった言葉に憧れを持ち、将来は自分もそうなるんだと自己暗示のようなものをかけていた5か月前と、インターンを終えた今では考え方が随分と変わった。というより、本来の自分のスタンスを思い出したといったほうが正しい。

その職場の環境は、入った当初の私には少し特殊に感じられた。いつ何時も「建築」のことを考えていて、休みの日でも仕事のための仕込み作業をしたり、仕事のLINEに対応したりと「やりたいこともやるべきことも建築」であった──ただ単に建築に'興味がある'という熱量ではなく、目の前の作品づくりのためなら設備投資は後回しといった内容だ──。

また、仕事とプライベートの境界が曖昧で、事務所支給のPCがなかったり、服装も普段着で公私の明確な線引きが存在せず、心のスイッチの切り替えも困難だ。

まさに自分の身を削って夢を追い続けているという印象であった。


それに対し、現在バイトで通っている建築事務所はその対極に存在するといっても過言ではない。

そもそも業務内容も前者の'奇抜な発想で世の中へ逆風を吹かせよう'という姿勢とは真逆で、文化的価値のあるものを大切にして後世に継承するといったものである。

もちろん逆とは言っても常に仕事以外のことに注意が向いている訳ではない。

休憩中に社員同士で近況報告などをすることで適度に集中が途切れて緊張が緩む瞬間がなく生まれ、仕事との間に一定の距離感が保たれるのだ。

昼休憩の時間が指定されていたり、ほぼ定時で終業するメリハリの良さが、会社と自分が切り離されている感覚を築いているのかもしれない。

あくまで上記の比較は人によって異なる適不適の問題であるため、良いか悪いかの問題ではない。


2.仕事と趣味

まずは言葉の定義から考えてみる。精選版 日本国語大辞典には、

仕事:①すること、しなくてはならないこと②生計を立てていくための職
趣味:①物事の持っている面白み②物事の味わいやおもしろみを感じ取る能力③職業や専門としてでなく、楽しみとして愛好するもの

とある。端的に言えば、「仕事=for LIFE」、そして「趣味=for FUN」ということになる

それぞれの特徴を列挙して比較してみる。


仕事の特徴

1. 将来のために"すべき"こと

宿題はHOME'WORK' であるし、家事もHOUSE'WORK' と訳されるように、どちらも"やりたい"ことではなく"すべき"ことである。

2. 納期がある

場合によってはクオリティを落として対応する必要がある。とりあえず完成させることを優先し、自分勝手なペースで仕事を進めない。成果への妥協も必要になってくる。

3. 効率重視

取り掛かる前に何がテーマか、どこが大事なのか、最低限必要なことは何かを判別する。時には「飯のタネ」だと割り切ることで不要な気配りを減らせる。

4. 情熱やこだわりは必須はない

現状の仕事が自分が今できること(実力)の全てと考える。あるいは、そもそもやりたいことはまだ自分の能力が追いついていない領域にあると解釈する。よって、まずは今できることを仕事にして、やりたいことは一旦趣味として続けつつ、少しずつ実力を養成していく。

仕事を趣味感覚で妥協せずに完璧に仕上げようとすると、残業が増えたり、期日が過ぎても心残りができて脳が休めなくなる。

5. 気の合う人とできるものではない。

趣味のサークルは価値観の合う人同士が集まる出入りのしやすい環境かもしれないが、会社となると話は変わる。様々な性格の社員が協力してビジネスをする組織であり、社内で良い人間関係を築けても取引先がいつもそうとは限らない。

自分が満足するまでこだわり続けて周りの流れを滞らせる者と、相互の許容できるラインを探してビジネスとして成立させたい者が混在する点も考慮が必要だ。

また、B to BかB to Cかも大きな違いだ。インターン先では主に個人の客が相手としていたため、求められるコミュ力は高度であり、休日でもメール対応に追われる。対して今も勤める事務所は役所や企業からの依頼が多く、カチッとした印象でビジネスとして割り切りやすい。


趣味の特徴

1. 現在の欲求に基づく"やりたいこと"

2. 締切がないため自分のペースでできる

3. クオリティを追求できる

4. 関わる人を選べる


3.仕事に対する姿勢

i) 全体像を把握する

  • 何のためにやるのか
  • 誰のためにやるのか
  • 協働者は誰か
  • どれくらい時間がかかるか
  • 優先すべきことは何か
を大まかに考え、タスクごとに必要な質を見極める。

例えば、誰宛てのメールかで丁寧さを変えるなど、全ての仕事を100%のクオリティでアウトプットしようとしない。すなわち、それぞれのタスクにおける及第点を適切に判断している。


ii) とりあえず完成させる

若手が時間をかけて質を高めようとしても上司の求めるレベルに達することは難しい。それなら、期限まで粘らず、道半ばでも一通り終えた時点で早めに報告・提出することでやり直しを最小限にできたり、フィードバックを活用できる。

iii) 事後の分析を怠らない

今どれくらい時間がかかっているか計測して現状の見える化を行ったり、フィードバックから問題点を見つける。

一度失敗したことは二度と繰り返さないように対策し、信頼の回復に努める。


4.まとめ

夢や目標を掲げる前に、趣味を仕事にすることで起こりうるリスクも知っておかなければならない。キラキラした有名人の言葉を盲信して、いざ、仕事で追い詰められたときに逃げ場を失い、大切な場所まで仕事が侵入してきても、誰も心の傷は癒せない。既にいくつか趣味があって、そのうちの1つを仕事に移行するという考え方なら問題ないが、絶対に守りたい趣味と仕事を1つにまとめて生計を立てようとするにはリスクが生じる。それを跳ね除ける気概のある人以外は、両者に適度な距離をもたせることが大事だと考える。


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